遺骨ダイヤモンドを諦める5つの理由
「お母さんの遺骨をダイヤモンドにしたいんだ」
夕飯後、食卓に残った味噌汁の湯気がゆらゆらしている中、
私はそっと切り出した。
夫は箸を置き、眉をひそめた。
「それってさ、怪しいやつじゃないのか?
法外な値段とか、本当にダイヤモンドになるのかとか」
ああ、来た。
夫の慎重すぎるスイッチが入った。
私は深呼吸して、心の中でつぶやく。
(落ち着け私。ここで感情的になったら負けだ)
1.遺骨ダイヤモンドは本物なのか?
「まずね、遺骨ダイヤモンドは本物のダイヤモンドなんだよ」
「人工なんだろ?」
「人工だけど、成分も硬さも輝きも天然と同じ。
鑑定士でも見分けがつかないんだって」
夫の眉が少しだけ上がった。
興味が湧いてきた証拠だ。
「遺骨に残った炭素を取り出して、高温高圧で育てるの。
天然のダイヤモンドが地中で生まれるのと同じ環境だよ」
「へぇ科学だな」
夫の理系男子スイッチが今度は良い方向に入った。
2.遺骨に炭素は残っているのか?
「でもさ、遺骨ってカルシウムじゃないの?」
「そう、主成分はカルシウム。でもね、
火葬しても1%くらい炭素が残るの。
その貴重な炭素を丁寧に取り出すんだよ」
「1%そんなに少ないのか」
「だからこそ、ラボの人たちが宝物みたいに扱ってくれるんだよ」
夫は胸ポケットを押さえた。
宝物という言葉に弱いのは知っている。
3.遺骨が足りない場合は?
「もし遺骨が足りなかったら?」
「思い出の品から炭素を取れるよ。
眼鏡、日記、服、写真
最悪は家族の髪の毛でも作れるんだって」
「髪の毛!」
夫がまた一歩下がった。
なぜ下がる。
「ホラーじゃないよ。愛だよ」
「愛か」
夫は前に戻ってきた。
単純で助かる。
4.値段が高い(ここが夫の最大の関心ポイント)
「で、値段は?」
来た。
夫の家計防衛スイッチが入った。
「一番安いのは26万4千円。
小さなダイヤを2つ作るミニダイヤペアね」
「ほう」
「人気の0.10ctを指輪にすると45万円くらい。
一番高いと340万円くらいになることもあるよ」
「340!」
夫の目が一瞬だけ泳いだ。
でも私は続ける。
「サイズや色で変わるから、まずは見積もりを取ればいいんだよ。
車買うときと同じ」
「なるほど」
車という例えは夫に効く。
5.製作期間が長すぎる
「3〜6ヶ月くらい。
今は世界情勢で半年以上かかることもあるみたい」
「そんなに?」
「でもね、その待つ時間が心を癒してくれるんだよ。
お母さんが遠いラボで頑張ってると思うと、
寂しさが少し和らぐの」
夫は静かにうなずいた。
完成した遺骨ダイヤモンドは?
「専用の箱に入って届くよ。
鑑定書もついてて、誰の炭素から作られたかも書いてあるの」
「へぇ、ちゃんとしてるんだな」
「怪しくなんかないよ。
科学と愛の結晶なんだよ」
夫はようやく、ほっとした顔をした。



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